CHAPTER:3  邪悪なプロジェクト



ギギィィィィィィィィ・・・・・・・ 扉が開かれると、部屋の中から複数の視線が一斉に私の方に向けられたのがわかった。
目の前に広がる光景は、薄暗い広間の中央に仮面をつけた7人の黒マントの人間が立ち、それを壁に掛けられた松明の光が怪しく
照らし出している。そしてマント集団に囲まれるように円柱に手足を縛られた六条歌須美の姿が・・・。ほぼイメージどおりの展開だった。
                              
「あなたたち、六条先生をどうするつもり!?ヘンな真似はやめなさい!」私は黒マントたちを一喝すると歌須美の元へ駆け寄った。
「先生!お怪我は?」 よく見ると歌須美の口には猿轡がしっかりはめられており、返事もできない状態だった。
私は黒マントたちの妨害を予想していたが、意外にも集団はその場に立ったまま私の行動をただ見つめているだけである。
 
不審に思いつつも歌須美を縛っていた革ベルトを解いた私は、グッタリした彼女の体を抱きかかえるように受け留めた。
「先生、もう安心して。助けに来たわ。」 私は出口に向いながらそう言って口の猿轡を取り外した。
「あぁ、来洲先生・・・・」 歌須美はやっと解放されたという安堵感を込めた声で私に語りかけてきた。しかし、次の瞬間、歌須美の声質
がまるで別人のように変わった。
「ほほほほほ!まんまと罠にかかったわね、来洲美架。」
「えっ!ど、どういうこと?!」 私は何が起きたのか一瞬理解できなかった。
歌須美はパッと私から遠のくと、それまでグッタリしていた体をシャキッとさせ、ロープで縛られていた手首をさすりながら言った。
「私の演技もなかなかでしょ? 先週の深夜の校門での格闘。あなたは相当腕の立つ武道の達人と見たから襲撃しても無駄と思い、
こうしてわざわざ凝った芝居をうってあなたをここまでおびき寄せたのよ。あなたなら仲間のピンチをきっと無視できないだろうし、秘密
の入口のギミックも解き明かせるはずとわかってたわ。そしてそろそろ到着する頃と思ってたらその通り現れた。」
歌須美が巻き上げた髪をバサッと解き、顔の皮膚を剥ぐようにベロリと薄いマスクをめくり取ると、そこにはまったく別の顔が現れた。
                                                 
「芝居ですって?!それじゃ、この学園に赴任したのも、メモを残して屋上へ私を呼び出したのも、すべて仕組まれたもの?」
「ようやく気づいたようね。そのとおり、六条歌須美なんて元々架空の人物よ。申し遅れたけど、私は聖サバト学園理事長の泥門怖美
(でいもん ふみ)。 あなた、私たちの極秘の計画を調べてるそうね?」
「理事長?あ、あなたがサバトの理事長?! ということは・・・・」
                                              
「ということは、なに? マッド・ティーチャーズの支局長とでも言いたいのかしら? あなた、単なる詮索好きの教師じゃないわね。
マッド・ティーチャーズの存在を知っているなんて、いったい何者?どこの回し者なの!?」
「やっぱりそうだったのね。あなたのおかげで、この学園を裏で操る闇組織がマッド・ティーチャーズだってことが確認できたわ。」
私はこれ以上普通の教師として知らぬ存ぜぬを押し通すことは、この連中に対しては無意味であると察していた。
「来洲美架。あなたが何者であろうと、私たちの計画を邪魔する者は生かしてはおけないわ。」 怖美はそう言うと黒マントたちに
合図を送った。
それまで人形のように棒立ちだった黒マントの集団が一斉に私の方へ歩き出す。
「ふん、そうやすやすとはやられないわよ!」私はとっさに格闘の体勢に身構えた。
「さあ、それはどうかしら?」 怖美は不遜な笑みを浮かべている。
   
黒マントたちは私をぐるりと取り囲むと、鋭いパンチを順番に繰り出してきた。
私は巧みにこれをかわしながら、隙あり!と一人の腹に強烈な肘鉄を喰らわせた。
  
ドタン!!と仰向けになって倒れた黒マントの顔から仮面がポロリと外れ落ちる。
「えっ!」 その仮面の下に現れた顔を見た私は思わず声をあげた。
なんとそれは権藤寺亜矢の顔だったからだ。
           
「そ、そんな・・・・」 私の脳裏に嫌な予感がさっと走る。 私は夢中で残る黒マントの仮面を次々と剥ぎ取っていった。
「山部さん・・・奈良さん・・・蘇我さん・・・平安さん。それに、室町さん・・・縄文さん・・・。 あ、あなたたち、いったい・・・・」
            
「はははははは!美架先生。その者たちをご存知でしょ。あなた、かわいい教え子たちに暴力を振るえて?」
「うっ、卑怯な。いったい生徒たちになにをしたの!!」 私は怖美に向かって叫んだ。
そんな私に生徒たちが再び襲いかかってきた。
ヘタに手出しするわけに行かず、私はもっぱら防御と回避に徹し続けた。
このままではまずいわ!
そう思った瞬間、強烈な衝撃を左の脇腹に受け、私はその場にうずくまってしまった。 
うっぐぐ・・・い、痛い。肋骨が折れたようだ。
顔を上げると、先ほど私の肘鉄を受けた権藤寺亜矢が金属バットを握り締めたまま冷たい笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
 
そこへ怖美が進み出てきて言った。
「そこまでね、美架先生。ところで明日からの連休だけど、ご予定はあるのかしら?よろしかったら、私たちにお付き合い下さらない?
じっくり時間をかけて、あなたからいろいろお聞きしたいことがあるの。おほほほほほほほ・・・・・」
私は痛む脇腹を押さえながら、怖美の無気味な笑い声をただ聞くしかなかった。
その後、生徒たちが一斉に私に群がってきたが、私の記憶はそこで途切れた。
 

「いつまでおねんねしてるのさ?先生、授業の時間だよ。」
そう言われて我に返った私は、自分が両手を天井から下がった鎖につながれ、両足も床に取り付けられた鉄枷に固定されている
ことに気がついた。
上着は脱がされていたものの幸い衣服は元のままだったが、先ほど金属バットで思いっきり殴られた左脇腹の痛みはジンジンと
いまだに響いていた。
            
                 

 目の前にはマントを脱ぎ捨てた制服姿の生徒たちが薄ら笑いを浮かべながら私を眺めている。
「教壇上の姿も素敵だけど、そういう格好もとてもお似合いよ、美架先生。」 そう言ったのは中央に立つ権藤寺亜矢だった。
「権藤寺さん、山部さん!いったいどうしてこんなことするの?!奈良さん、蘇我さん!!この鎖を解きなさい!」
「おほほほほほ・・・・。生徒たちに何を言っても無駄よ、美架先生。この子たちは既に私たちのメンバーなの。」
そう言いながら暗闇の中から生徒たちの背後に現れ出でたのは理事長の泥門怖美だった。
そしてその後ろから校長をはじめ、何人かの教員が続けて姿を現した。
                                       
「メンバーですって?! いったいどういうこと!!」
「どういうこと ですって? 権藤寺亜矢、美架先生に教えてあげなさい。」 怖美が亜矢を指名する。
亜矢は「はい理事長。」と答えて一歩前に進み出た。
          
「私たちは特別課外クラスに選ばれた名誉ある生徒なの。課外クラスで私たちは、腐った世の中を浄化し新しい秩序を打ち立てる
******プロジェクトについて多くを教わってきたわ。新世界において滅ぶべき人間と残るべき人間の選別方法もね。」
「よろしい、権藤寺亜矢。 どう、おわかり?私たちは生徒たちに“正しい教育”をしたまでのこと。教育者として当然のことだわ。」
「“正しい教育”ですって?反社会的な行為を正当化するようなものは断じて“正しい教育”なんかじゃないわ!」
「何が社会的で何が反社会的か、それは主観の問題ね。いずれにせよ、私たちのプロジェクトの遂行に支障をきたすものは、一切
取り除く必要があるの。だから、あなたの所属する組織、そしてここでつかんだ情報。それを洗いざらい教えてくれないかしら?」
「ふん、言うわけないでしょ!私を甘く見ないで。」 私は弱みを少しでも見られぬよう、わざと強がって言った。
         
「私の質問の仕方が悪かったみたいね。どうやらあなたの場合は耳に尋ねるより体に訊いた方が合っているみたい。
今の2つの問に対し、あなたからどの段階で解答が引き出せるか楽しみだわ。時間はたっぷりあるしね・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」 私は無言で怖美の顔を睨みつけた。 拷問なんかに負けないというせめてもの徹底抗戦の意志表明だった。
                                                    
すると生徒の群をかきわけ、校長と教員たちが前に進み出てきて、生徒たちの方を向いた。
「諸君。我々は今宵恰好の実験体を手に入れた。今こそ日頃の特別課外クラスの成果を見せてもらおうではないか。」
生徒たちは普段の授業中ではめったに見せないような真剣な表情で校長の言葉に聞き入っている。一言一句漏らさぬよう。
「今から行われる実習は、卒業審査を兼ねたものだということを忘れるな。諸君らへの出題は2問だ。<問1>この偽教師の正体を
暴くこと。 <問2>この女がここで得た情報のすべてを訊き出すこと。
以上だ。 解答を導く手段は諸君らに任せる。大いに学習の
成果を如何なく発揮したまえ!」
                   
な、なんと、早い話が、私を実験台にした拷問実習ではないか! しかもその責め手が教え子たちだなんて・・・・
私はこの悪魔のような発想に背筋を走る嫌悪感を禁じえなかった。

                                 

 

※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。

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