CHAPTER:7  水中の悪魔



ジャラジャラジャラ!!!  ジャラジャラジャラ!!!  ジャラジャラジャラ!!!
滑車が鎖を激しく巻き上げる音が地下室の四方の壁に反響した。
あっ、うぅぅぅ・・・・
それと同時に両腕の付け根に強烈な痛みを感じ、私は正気を取り戻した。
                     
ジャラジャラジャラジャラーーー!!!
なおも鎖は巻き上げられる。 いまだ電気ショックで朦朧とする意識の中で、私は自分の体がその鎖によって徐々に宙に浮き上がって
いくことがわかった。
もげるほどの激しい腕の痛みは、その部分で全体重を吊り上げているからだったが、実際はそれ以上の負荷がかかっていた。
なんと私の両足は膝から下はガッチリとブーツ状の金属製の器具が取り付けられており、そのブーツの重量が体重以上に腕に悲鳴を
上げさせていたのだ。
   
1メートルくらい足先が床から浮いたところで滑車は固定された。
う、うぐぐぐぐ・・・・・ じっとしているだけでも苦しいこの体勢に、私は顔をしかめ呻き声を上げた。
上半身はかろうじてところどころ破れたシャツを身につけていたが、下半身はいつの間にかスカートを剥ぎ取られているようだ。
その証拠に地下室の冷気が腰のまわりにヒンヤリと触れる感じが伝わってくる。

「美架先生。4時間目の実習を始めてもいいかしら?」 私の背後から発せられたその声は、平安(ひらやす)京子だった。
京子はゆっくり歩きながら私を前方から見上げる位置に立った。
「平安さん、あなたまで、いったいどうして・・・・・・・・」
「先生、悪いけど、この実習はいつもと立場が逆なの。つまりあなたから質問することは許されないわ。あなたは私の問に答えるだけ。」
京子はまるで教師気取りで誇らしげに言った。 そして足の金属ブーツを両手でおもむろに摑むと押し下げながら言葉を続けた。
               
「これまで殴打、針、電気と私たちの拷問に耐え抜いてきたことは賞賛するわ。でも、どうやらそろそろ限界に達しているみたいね。」
京子が少しずつ体重をそのブーツにかけていく。
ギギギギギギ・・・・・・ うっうぅぅぅぅぅ・・・・・ 後ろ手に縛られた腕に負荷が集中し、痛みに脂汗がどっと全身から湧き出してくる。
「そろそろ、解答をもらえないかしら? あなたの正体は?そしてこの学園で得た情報は?」
京子はブーツを押さえ込む両手にさらに力を入れる。
ギギギギギギギギ・・・・・ あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「うぅぅぅ・・・ む、無理ね。私から解答を引き出すことはできないわ!た、たとえ、腕を・・・・・」
「たとえ腕をもがれても、とでも言いたいの?」 京子は面白がってますますブーツを押し下げる。
ギャアァァァァアァァァァアアァァァアアアァァッァァァァァァアアァ!!!
私の大きな悲鳴が地下室の空気を振動させた。
   

京子はしばらくその反響する悲鳴を聞いていたが、やがてブーツから手を離し、そばにあったコントローラーを手に取りながら言った。
「そのまま腕をへし折ってもいいけど、もっと面白い実験を今日はあなたの体で試させてもらうわ。」
ジャラジャラジャラ!!!  ジャラジャラジャラ!!!  ジャラジャラジャラ!!!
コントローラーのスイッチを操作すると再び滑車が回転しはじめる。 今度は横方向へのスライドだった。
グルリと半回転すると、私の目の前に人がスッポリ入ってしまうほど大きな縦型のガラス張りの箱が現れた。
         
京子は巧みに複数の滑車を操作し、さらに私の体を天井近くまで吊り上げると、横スライドでちょうど箱の真上に移動して停止させた。
まるでアミューズメントセンターのクレーンゲームを思わせる動きである。
真上から見るとガラス張りの箱の中にはなみなみと水が張られている。まるで縦型の大きな水槽だ。今度は水責めか!
「美架先生、もう一度訊くわ。 あなたの正体は何者?それと、ここで調べ上げた情報はなに?」
「平安さん、あなた、間違ってるわ!こんなやり方。いい加減、目を覚ましなさい!!」
「目を覚ますのは先生、あなたの方よ。仕方ないわ、冷水の中で気が変わったら教えてね。」
京子は手にしたコントローラーのボタンをDOWNに入れた。 私を吊る鎖が徐々に箱の中に降りていく。
ザブザブザブザブ・・・・と静かな音をたてながら、まず金属ブーツが、そして膝、腰、腹、胸と水の中に沈んでいく。
当然この箱の高さから、全身が完全に入ると水中に没することは容易に想像ができた。
私は目いっぱい空気を吸い込みこれに備えた。
私の体積分の水が水槽の上から
ザザザァーーッと溢れ出し、金属製の重いブーツの底がガチャンと音を立てて水槽の床につく。
頭の先まですっかり水の中に潜った私はしばらく無呼吸を続け、やがて
ブクブクブク・・・と口に含んだ空気での呼吸に切り替えた。
   
「あら、先生。潜水が得意のようね。それじゃこうするわ。」 京子が別のスイッチをONにすると、突然ブーツの中でふくらはぎに激痛
が走った。 な、なに!?針?ナイフ? どうやらブーツの内側には鋭利な棘状の突起物が埋め込まれており、コントローラーの操作
でそれが内側に向けて伸び出る仕組みになっているらしい。
突然の鋭利な棘でふくらはぎを貫かれたような痛みに、私はあぁっ!と叫んだ瞬間、口の中の空気を思わず全部吐き出してしまった。
ゴボゴボゴボゴボゴボ・・・・・・咳き込むやいなや水が口や鼻から浸入してきた。
そこからは文字通り地獄の苦しみだ。強烈な息苦しさに襲われ水中でもがき苦しむ私を京子は無気味な笑顔で見つめるだけだった。
私は必死で水面に浮き上がろうと背を伸ばしたが、重量級の金属ブーツのおかげで足は根が生えたようにビクとも動かない。
         
しばらくしてようやく京子はコントローラーのUPボタンを操作し、私の顎がようやく水面に出るところまでゆっくりと引き上げた。
ゴホッ、ゲボゲボゲボォーーー!! ハァハァハァハァ・・・・ 大量の水を口から吐き出しながら私は激しく咳き込む。
それも束の間、京子は呼吸が整わない私の体を再び水中に沈めた。
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ・・・・・・・ 激しい泡が水槽いっぱいに広がる。
足を固定され、膝から上をくねらせながらもがく姿はまるで波に揉まれて揺れる海藻のようだった。
激しい呼吸困難と時折起こるブーツ内での両足に対する鋭い痛みの両方に私は耐えなければならなかった。
そして京子はというと、そんな私の動きをまるで水槽の熱帯魚でも観賞するようにガラス越しにじっと見つめていた。あたかも今何を
やっているかをすっかり忘れてしまっているかのように。
                     
(危険だわ!この子、溺死フェチなの?!心ここにあらずって・・・・・) もがき苦しみながらも私の脳裏にそんな恐怖がサッとよぎる。
ハッと我に返ったように京子がコントローラーを操作する。 顎が水面すれすれになる程度に私の頭が出る。
ゲゲゲゲェェェェェェーー!!ゴホッ・ゴホゴホゴホ!! ハァハァハァハァ・・・・
「どう、先生。打撲や針や電気とも違う苦しみって。水と一緒に解答も吐き出す気になってくれたかしら?」
「ハァハァハァハァ・・・・・ い、いやよ!これしきのことで・・・ハァハァハァ・・・・気は・・・ハァハァハァハァ・・・変わらないわ!」
                 
「これしきのこと? よくも言ってくれたわね!」 今の一言はどうやら京子のプライドを傷つけるに十分だったようだ。京子が一変した。
「それじゃあ、お遊びはこれくらいにして、いよいよ本番行くよ!」
京子は一瞬姿を消すと今度はボウルを一つ手にして水槽の前に現れた。
「これがなんだかわかる? さっきの赤子の責めであんたが下から出したモノだよ。おかげで私が処理するハメになった。
本番に移る前に、まずはこいつをあんたにお返しするよ!」
そう言うと京子は踏み台に登り、水槽の上からボウルの中のものをザァッとあけた。
かろうじて口元を水面に出している私の目の前を無数の排泄物が漂い、独特の臭気が水槽内に充満する。 「う、うぅぅ・・・」
     
「あはははははははは!! 普段教室じゃエラそうにしてるけど、その無様なかっこうはどうだ! あはははははははは!!」
「く、くぅっ・・・・・・」 私は必死にこの屈辱的な京子のやり口に耐えた。
「さあ、これからが本番だよ。白状したくないなら覚悟するんだね!」
京子のコントローラーは別の滑車を動かし、大きなバケツを吊り下げた鎖がわたしの頭上でピタッと停止した。
次の瞬間、バケツがひっくり返り、
ドドドドドドドドドーーー!!と大量の何かが水槽の中に注がれてきた。
な、なに!! 私は一瞬なにが起きたかわからなかったが、あらためて水槽の中を見るとそれが小型の魚の群だと言うことに気づいた。
「私たち生物部が品種改良を重ねてようやく生み出した新種の小型ピラニアよ。飼育はラクでしかも殺傷力・凶暴性は通常のピラニア
より勝る。どう?すごいでしょ!」
そう言われてよく見ると、小型ながらその口には鋭い歯がギッシリ並んでいる。明らかに獰猛な肉食魚だ。
    
ピラニアたちは私の体のそこここをさんざん鼻先で突きまわしていたが、やがて針責めで受けた乳房の無数の傷口に血の匂いを
嗅ぎつけると、そこに集中して体当たりをしはじめた。
私はこれを避けようと身を左右に激しく揺すったが、離れては付き、また離れては付きとピラニアたちはしぶとく獲物に食い下がる。
やがて傷口が徐々に開き、そこから一筋二筋の血が水面に向かってゆらゆらと立ちのぼり始め、水が赤く濁り出す。
これを合図に一斉にピラニアたちは私の傷口めざし攻撃を開始した。
う、わぁぁっ!!やめろぉーー!! 
私はさらに激しく全身を揺すったが、歯を剥き出しにしたピラニアたちは喰いつくと容易に放さない。
ぎゃぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあああぁーーー!!!
ピラニアたちは傷口に突き出した口先を強引に突っ込み、中の肉に食らいつく。
見る見る水中は鮮血で真っ赤に染まり出し、小さな肉片が四方八方に浮遊する。
     
生きながらにして身を喰いちぎられる痛みは弥生の刺繍針などとは比べものにならないくらい激しいもので、私はこの時はじめて「死」
を直感した。
「先生、このミニピラニアの素晴らしいところは、通常のピラニアより獲物を食い尽くすのに時間がかかるってことなの。少しずつ、じわ
じわと、しかし着実にね。だからそれだけ獲物に与える苦痛も長引かせることができる。もっとも、そのための品種改良だったわけで、
拷問用の小動物としては最高傑作だわ!」
その間にも、ピラニアたちは私の背中、腹、腿、尻、股間といった無傷の肌にまで鋭い歯を剥き出しにして喰らいついてくる。
皮膚を剥がし肉に歯を立て体全体をブルブル震わせながら肉片を喰いちぎる。
                  
全身を鋭い痛みが覆いつくす。もはやどんなにもがいても、一旦肉の味を知ったピラニアたちは決して逃げることはなかった。
グワァァァァァァァァァアアアアァァァアァァァアァァーー!!
京子の説明も私の耳には遠くにしか聞こえず、
バシャバシャと耳元で起こるこの小悪魔たちの水しぶきが恐ろしい音色となって
私の精神をも苛んでいった。
「どんなに抗っても無駄よ、先生。 その体勢じゃこいつらを撃退するのは無理だわ。この場で白骨死体になってもいいの!? 
素直に吐けば、即刻ピラニアを取り除いてあげるのに。さあ、さあ、どうするの!!」
ウワァァァァアアァァァァアアァァァァアアァァァーー!!
「こ、殺すがいい! 死んでも口は割らないわっ!!」 私は京子が殺意までは持っていないことに賭けてわざと言った。
                
しばらく私のピラニアたちとの七転八倒の死闘を眺めていた京子はやがて、「ふぅー、本当にしぶといわね。 わかったわ、失敗だった
ようね、このやり方。」と言うとチラッと残り時間を確かめた。

京子の操作で再び滑車が回転をはじめ、鎖がゆっくりと上に引き上げられていった。
私の体に噛みついたまま無数のピラニアも一緒に水槽から引き上げられたが、水がないことに気づくと、順々にわたしの体を離れ
床に落ちてパタパタと暴れまわった。
一方、天井高く吊り上げられたわたしの体を覆い尽くした無残な傷口は堪えきれないほどの痛みを発し、そこから流れ出る血が体
を行く筋も伝って滴り落ちていた。
       

京子の操作する滑車は私の体を吊り下げたまま再び横回転にスライドしていった。 そして私の目の前にさらにもう一個の大きな水槽
が現れた。
その水槽にも同様に水がなみなみと入れられてたが、その水は赤みがかった半透明の色をしていた。
「先生、ピラニアたちに食い散らかされた傷の具合はどう? 想像を絶する痛みに必死に耐えてるって感じね。図星でしょ?」
まさに京子の指摘どおりだった。 私はこれに答えることすらできないほど、激しい痛みと闘っていたのだ。
               
「その赤い液体はね、70%の高濃度の塩水にタバスコをたっぷりとブレンドしたものよ。近寄るだけで目がヒリヒリしてくるでしょ?
あんたのその満身創痍の体をここに浸けたら、はたしてどうなるかしらね?ふふふふふふふふ・・・・・」
日頃授業態度も真面目な京子を、ここまで残酷な行為を楽しむまでに変貌させたマッド・ティーチャーズの恐るべき洗脳に私は戦慄
し、ただ無言でこれから自分の身が味わう生き地獄を思い浮かべながら懸命に恐怖心を抑え込むしかなかった。
「さあ、最後のチャンスをあげるわ。すべてを白状するか、さもなくば赤い水に体を焼かれるか。さあ、どっちを選ぶ?先生。」
私は覚悟を決めた。
「答えるまでもないわ!こんな非人道的な行為に屈するつもりはない。塩でもタバスコでも好きにして!私は負けないわっ!」
                   
京子は一瞬ニタッと笑うと、コントローラーのスイッチをDOWNに入れる。 私は思いっきり唇を噛み締め、目を硬く閉じた。
ゆっくりと鎖が下に向かって降りていく。足先から腰、腹、胸と次々に水没していくにつれ、私の全身はまるで炎で包まれていくが
ごとく強烈な痛みを伴った熱で覆われていった。
ピラニアに噛み刻まれた全身の傷口が一斉に開き、噴き出した血が赤い水をさらに赤く染める。
ググ、ギャアァァァァアァァァァアアァァァアアアァァッァァァァァァアアァ!!!!!!!
             
まるで無理やり傷口を抉られるような激痛に、私は水槽の中で文字通りのた打ち回った。
「いい加減、吐いたらどう!そしたらすぐに水槽から出してあげるわよ!!」 京子が叫ぶ。
イヤァーー、イヤァーー、イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ--------!!!!
全身を激しく揺するたびに、底面から浮いている私の金属ブーツの両足がガラス面に何度もぶつかる。
も、もうダメ!!! これ以上は・・・・・耐えられない・・・・・・そんな言葉が私の脳裏をかすめた。
その瞬間、
ガッシャァァァァァァァーーンとガラスが砕け散る音がして、同時に大量の赤い水が地下室一帯にぶちまけられた。
   
「平安京子。そこまでだ!」 鳶場教諭の終了を告げる声が響いた。
時間切れを待っていたように校長がおもむろに立ち上がった。
「実験体の衰弱度から、このまま継続すると実習生諸君にとって不公平が生じかねない。一旦体力・気力を回復させ、この続きは
明朝9時から再開するとしたいが、理事長、いかがですか?」と実習の休止を理事長の泥門怖美に確認した。
「そうね、いいわ。 それにしてもしぶとい女ね。これだけでもこの女が只者じゃないことは一目瞭然だわ。まぁ、拷問実習には最高
の実験体だけどね。」 ドシャッと床に叩きつけられるように降ろされた私の体を、手にした差し棒で小突きながら怖美が言った。
私は絶望感に包まれながらやがて意識を失っていった。

          




※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。

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